ウダーナ ベスト・オブ・仏教 第2章8スッパヴァーサーの経 (現代語訳・解説)
2.8 スッパヴァーサーの経(18)
このように、わたしは聞きました。
あるとき、お釈迦様は、クンディカーに住んでおられた。
クンダダーナ林で、コーリヤ族の子女スッパヴァーサーが七年のあいだお腹に子供がいた、お産は七日掛かり、強烈な辛い苦痛におそわれたが、三つのことを考えて耐えていたのです。
「世尊は正しく目覚めた者です。この苦しみを捨てるために法(教え)を説き示すお方」
「世尊の弟子の僧団は善き修行者です。この苦しみを捨てるために道の修行者として正し
く歩んでいるのです」
「涅槃は安楽です。そこではこの苦しみがまったくないのです」
コーリヤ族の子女スッパヴァーサーは、主人に語りかけました。
「あなた、世尊のおられるところで、世尊の足に額をあててご挨拶(あいさつ)してくださいませ。
病苦、病悩少なく、軽やかで、お元気で、平穏にお暮らしであるかを伺ってください。『尊き方よ、コーリヤ族の子女スッパヴァーサーは、世尊の足に額をあててご挨拶(あいさつ)します。病苦、病悩少なく、軽やかで、お元気で、平穏にお暮らしであるかを尋ねます』と、お伝えください。
『尊き方よ、コーリヤ族の子女スッパヴァーサーは、七年のあいだ、お腹に子供がいた、
お産は七日掛かり、強烈な辛い苦痛におそわれておりますが、三つのことを考えて耐えて
いたのです。
世尊は正しく目覚めた者です。この苦しみを捨てるために法(教え)を説き示すお方
世尊の弟子の僧団は善き修行者です。この苦しみを捨てるために道の修行者として正しく歩んでいるのです
涅槃は安楽です。そこではこの苦しみがまったくないのです』」
「すばらしい」と、コーリヤ族の子息(夫)は、コーリヤ族の子女スッパヴァーサーに答
えて、お釈迦様のおられるところへ出かけ、お釈迦様にご挨拶(あいさつ)して、かたわ
らに坐りコーリヤ族の子息は、お釈迦様に申し上げました
「尊き方よ、コーリヤ族の子女スッパヴァーサーは、世尊の足に、額をあててご挨拶し
て、病苦、病悩少なく、軽やかで、お元気で、平穏にお暮らしであるかを、おたずねしま
す。尊き方よ、コーリヤ族の子女スッパヴァーサーは、七年のあいだ、お腹に子供がい
た、お産は七日掛かり、強烈な辛い苦痛におそわれておりますが、三つのことを考えて耐
えております。
『世尊は正しく目覚めた者です。この苦しみを捨てるために法(教え)を説き示すお方』
『世尊の弟子の僧団は善き修行者です。この苦しみを捨てるために道の修行者として正し
く歩んでいるのです』」
『涅槃は安楽です。そこではこの苦しみがまったくないのです』」
お釈迦様はこのように語り掛けました
「コーリヤ族の子女スッパヴァーサーは、安らかになることを、健やかなることを、健や
かな子供を産むことを」
お釈迦様のこの言葉と共に、コーリヤ族の子女スッパヴァーサーは、安らかとなり、健やかとなり、健やかな子供を産みました。
「尊き方よ、そのとおりです」と、そのコーリヤ族の子息は、お釈迦様が語ったことを喜び感謝して、坐から立ち上がって、お釈迦様をうやまい、拝み、自分の家に戻りました。
コーリヤ族の子息は、コーリヤ族の子女スッパヴァーサーが、安らかとなり、健やかとなり、健やかな子供を産んだのを見てこう思ったのです。
「ああ、めったにないことだ。ああ、はじめてのことだ。悟った方の偉大なる神通だ、偉
大なる強い力だ。このコーリヤ族の子女スッパヴァーサーは、世尊の言葉と共に、安らか
となり、健やかとなり、健やかな子供を産んだ」
大きな喜びに浸り気持ちを新たにして、コーリヤ族の子女のスッパヴァーサーは、主人に語りかけました。
「あなた、世尊のところに出かけて、世尊の足に額をつけて尊敬にご挨拶(あいさつ)
し。お伝えください。
『尊き方よ、コーリヤ族の子女スッパヴァーサーは、世尊の足に額をつけてご挨拶(あい
さつ)します』 そして、『尊き方よ、コーリヤ族の子女のスッパヴァーサーは、七年あ
いだ、胎児を宿し、七日の難産でしたが、安らかとなり、健やかとなり、健やかな子供を
産みました。七日のあいだ、覚者とビク衆を食事にお招きいたします。尊き方よ、どうか
コーリヤ族の子女のスッパヴァーサーの七日の食事を、ビク衆と共にお受けください』」
「すばらしい」と、そのコーリヤ族の子息は、コーリヤ族の子女スッパヴァーサーに答え
て、お釈迦様のところに出かけ、お釈迦様にご挨拶(あいさつ)して、かたわらの座り、
コーリヤ族の子息は、お釈迦様に、こう申し上げた。 「尊き方よ、コーリヤ族の子女
スッパヴァーサーは、世尊の足に額をあててご挨拶して、『尊き方よ、コーリヤ族の子女
スッパヴァーサーは、七年のあいだ、胎児を宿し、七日の難産でしたが、安らかとなり、
健やかとなり、健やかな子供を産みました、七日のあいだ、覚者とビク衆を、食事にお招
きいたします。尊き方よ、どうか、コーリヤ族の子女のスッパヴァーサーの七日の食事を
ビク衆と共にお受けください』」
同じころ、ある在俗の信者が、覚者とビク衆を、明日の食事に招いていました。その在俗の信者は尊者マハーモッガッラーナの世話係なのです。
お釈迦さまは、尊者マハーモッガッラーナに語りかけました。
「モッガッラーナよ、その在俗の信者に『友よ、コーリヤ族の子女のスッパヴァーサー
は、七年のあいだ、胎児を宿し、七日の難産でしたが、安らかとなり、健やかとなり、健
やかな子供を産みました。七日のあいだ、覚者とビク衆を、食事に招いたので。コーリヤ
族の子女スッパヴァーサーから、七日の食事を受け取ります。あなたは、そのあとにしま
しょう』
「尊き方よ、わかりました」と、
尊者マハーモッガッラーナは、お釈迦様に答えて、その在俗の信者のいるところに行き、
「友よ、コーリヤ族の子女スッパヴァーサーは、七年のあいだ、胎児を宿し、七日の難産
でしたが、安らかとなり、健やかとなり、健やかな子供を産みました。七日のあいだ、覚
者とビク衆を食事に招いたので。コーリヤ族の子女スッパヴァーサーから、七日の食事を
受け取ります。あなたは、そのあとにしましょう」
「尊き方よ、尊いマハーモッガッラーナさまが、財産と、生命と、信頼と、三つの宝を願
って頂けるなら、コーリヤ族の子女スッパヴァーサーからの、七日の食事の後に。わたし
は、食事をお布施しましょう」
「友よ、わたしは、財物と、生命と、二つの法宝を願いましょう。ですが信頼は、あなた
こそが信頼なのです」
「尊き方よ、マハーモッガッラーナさまが、財産と、生命と、二つ宝を願って頂けるな
ら、コーリヤ族の子女スッパヴァーサーに、七日の食事を、お布施してもらいます。わた
しは、そのあとにしましょう」
尊者マハーモッガッラーナは、その在俗の信者を説得して、お釈迦様のところに行き
「尊き方よ、在俗の信者は、わたしが説得いたしました。コーリヤ族の子女スッパヴァー
サーに、七日の食事をしてもらいます、そのあとにしましょう」
コーリヤ族の子女スッパヴァーサーは、七日のあいだ、覚者とビク衆を、おいしい固い食料や軟らかい食料で満足させ、自らの手で給仕し、その幼児に、お釈迦様やビク衆の全てに礼拝させた。
尊者サーリプッタは、その幼児に
「坊や、ここはどうだい、健やかかい、苦しいことはないかな」
「尊きサーリプッタさま、どうして、ここがいいでしょう。どうして、健やかなのでしょ
う。七年のあいだ血の釜(子宮)のなかで過ごしたのです」
コーリヤ族の子女スッパヴァーサーは、「わたしの子供が、法(教え)の軍団長サーリプッタ長老を相手に語りかけている」と、大きな喜びに浸ったのです。
お釈迦様は、コーリヤ族の子女スッパヴァーサーが、大きな喜びに浸ったのを知って、コーリヤ族子女スッパヴァーサーに、話しかけた
「スッパヴァーサーさん、このような子供をもっとほしいですか」
「世尊よ、このような、かしこい子供を七人ほしゅうございます」
お釈迦様は、このことを知って、ウダーナを唱えました
不快なことを快いものとして
喜べないことを喜ばしいものとして
苦なることを楽なるものとして、打ちのめされる人は
怠りある生活に、打ちのめされている(22)
以上が第八の経となる。
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七年間も宿した胎児を苦痛に満ちた難産の末に出産した、その子の母は、わが子が生まれて直ぐに智慧の優れたサーリプトラ尊者と話す利発な子供であると解り喜んだお話
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なにが書いてあるか
(直訳詩)
Asātaṃ sātarūpena,
不快なことを快いものとして
piyarūpena appiyaṃ;
喜べないことを喜ばしいものとして
dukkhaṃ sukhassa rūpena,
苦なることを楽なるものとして
pamattamativattatī”ti.
怠りあることを超える
喜ばしいと思われても、聖者(お釈迦様)の眼で観ると別な側面が観える、という詩
長い間のお産の苦しみを忘れて、利発な子供と解ったら、本来苦しい長いお産のことは忘れて、もっと子供が欲しいと願う、このことは、聖者から見れば長く苦しいものごとが、世間では逆に美談に感じられるという物語です。
①不快・喜べない・苦なること
聖者の見方では、無常を正しく表しています
②快い・快い・楽なるもの
聖者の見方では、無常を正しくなく、つまり常住として表しています
①は仏教的なものの見方、②は俗世間のものの見方です、詳しくは2.10 バッディヤの経を参照ください。
コーリヤ国はお釈迦様の実母マーヤー夫人(摩耶夫人)と育ての親マハーパジャーパティー(摩耶夫人の妹)の実家です。二人とも王女、もしくは貴族です。正妃ヤショーダラー姫はやはりコーリヤ国の王女で、お釈迦様の母方の従妹でした(摩耶夫人の兄弟の娘)。すなわちスッパヴァーサーはお釈迦様の親戚です。多分ヤショーダラー姫の姪くらいにあたる女性であったはずです。彼女はお釈迦さまを非常に尊敬していました。