ウダーナ ~ ベスト・オブ・仏教 第8章7分かれ道の経(現代訳・解説)
8.7 分かれ道の経(77)
このように、わたしは聞きました。
あるとき、お釈迦様はコーサラ国で、遊行しておられます。
お供の修行者である尊者ナーガサマーラとともに。尊者ナーガサマーラは道が途中で分かれ道になっているのを見て、お釈迦様こう申し上げた。
「尊き方よ、わたしたちはこちらの道を行きましょう」
このように言われたとき、お釈迦様は尊者ナーガサマーラにこう伝えた。
「ナーガサマーラよ、わたしたちはこちらの道を行きましょう」
再度、お釈迦様にこう申し上げた。
「尊き方よ、わたしたちはこちらの道を行きましょう」
このように言われたとき、お釈迦様は尊者ナーガサマーラにこう伝えた。
「ナーガサマーラよ、わたしたちはこちらの道を行きましょう」
三度また、尊者ナーガサマーラはお釈迦様こう申し上げた。
「尊き方よ、世尊よ、わたしたちはこちらの道を行きましょう」
三度また、お釈迦様は尊者ナーガサマーラに、こう言いました。
「ナーガサマーラよ、わたしたちはこちらの道を行きましょう」
尊者ナーガサマーラは、お釈迦様の鉢と衣料をその場で大地のうえに置いて立ち去りました。
「尊き方よ、これが世尊の鉢と衣料です」
そこで、尊者ナーガサマーラがその道を行くと、道の途中で盗賊たちが出てきて手と足とで尊者ナーガサマーラを打ち据え鉢をも壊し大衣をも引き裂きました。尊者ナーガサマーラは鉢を壊され衣を引き裂かれたので、お釈迦様のおられるところに行きました。近づいてお釈迦様にご挨拶(あいさつ)して、かたわらに坐った尊者ナーガサマーラはお釈迦様にこう申し上げた。
「尊き方よ、わたしがその道を行くと、道の途中で盗賊たちが出てきて手と足とでわたしを打ち据え鉢をも壊し大衣をも引き裂きました」
お釈迦様は、このことを知ってウダーナを唱えました
他の人と交わり、共に歩み
一緒に住む、真の知ある人は
悪しき行いを捨てる
白鷺の子が羽から水をはじくように(90)
以上が第七の経となる。
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なにが書いてあるか
(直訳詩)
Saddhiṃ caramekato vasaṃ,
一つに、共に歩み、影響され
Misso aññajanena vedagū;
他の人と共に明智に通じる
Vidvā pajahāti pāpakaṃ,
智者は悪を知り捨てる
Koñco khīrapakova ninnagan”ti.
乳を飲む白鷺が低きところを行くように
解 説
Saddhiṃ caramekato vasaṃ,
他の人と交わり、共に歩み、
*覚者は一般人と一緒に生活しているのです。
*しかし、一般人のように悪に染まったり、悪行為をしたり、
Misso aññajanena vedagū;
一緒に住む、真の知ある人は
*一緒に歩むとか、生活するときは、智慧のない人々と混じって生活する場合は、
Vidvā pajahāti pāpakaṃ,
悪しき行いを捨てる
*智慧のある人は、この人は無知と知っていて、この人を避けるのだということ、
*不幸を招くことなどは一切ないのです。
Koñco khīrapakova ninnagan”ti.
白鷺の子が羽から水をはじくように
*例えの説明:koñcaは白鷺、又は白鳥です。白鳥は水が混ざった乳をもらったら、水を
除いて乳だけ飲むのだという例え話があります。
*善悪が混ざった世界で善のみを選ばれる覚者の能力を示すために使うフレーズです。
*白鷺の親が餌を食べて、それから、その食べた餌を吐いてヒナに、あげるんですね。だ
から、白鷺のヒナが沼を避けるように、智慧のある人は悪人と一緒に生活するのだけ
ど、悪行為、感情には交わらないという偈なんです。
*これは美しい言葉なのですね。
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伝 記
ナーガサマーラ
パーリ経典外では、ナーガパーラとあったらしい。カピラヴァットウのクシャトリヤ出身で、プッダの侍者八人のひとり。「テーラガーター」二六七~二七〇を説く
二六七 美しく飾られ、美麗な衣裳をまとい、花輪をかけ、栴敏の香粉で化粧して、舞姫が、大道のさ中で、楽器に合わせて踊っている。
二六八 わたしは、托鉢のために(町の中に)入って行った。進んで行きながら、わたしは、かの女が、美しく飾られ、美腿な衣裳をまとっているが、しかし死の縄をひろげているかのごとくであるのを見た。
二六九 そこで、わたしに、正しい道理にかなった思いが起った。患(わずら)いであると思う念(おも)いが現れた。世を厭う気持が定まった。
二七〇 次いで、わたしの心が解脱した。見よ、― 教えがみごとに真理に即応せることを、三つの明知をすでに休得したブッダの教えはなしとげられた。
ナーガサマーラ長老
