ウダーナ ~ ベスト・オブ・仏教

仏教ベスト盤 ~ ウダーナ ~ を翻訳・解説

ウダーナ ~ ベスト・オブ・仏教 第3章2ナンダの経 (現代語訳・解説)



 3.2 ナンダの経(22) 
 このように、わたしは聞きました。
 あるとき、お釈迦様は、サーヴァッティーに住んでおられた。
 ジェータ林のアナータピンディカ長者の聖園で、お釈迦様とは兄弟(異母弟)であり叔母の子(従兄弟)でもある尊者ナンダが、大勢の修行者に、このように告げました。
 「友よ、わたしは、清浄行を歩んでも楽しくなく、清浄行を修め続けることができないの
 です戒を捨てて還俗します」
ある修行者が、お釈迦様のところに行き、ご挨拶(あいさつ)して、かたわらに坐り、お釈迦さまに
 「尊き方よ、世尊とは兄弟でもあり叔母の子でもある尊者ナンダが、大勢の修行者にこの
 ように告げています。『友よ、わたしは、清浄行を歩んでも楽しくなく、清浄行を修め続
 けることができないのです、戒を捨てて還俗します』」
 お釈迦様は、ある一人の修行者に語りかけました。
 「ビクよ、わたしの言葉を、ナンダビクに伝えなさい
 『友よ、ナンダよ、教師があなたを呼んでいます』」
 「尊き方よ、わかりました」
その修行者は、尊者ナンダのいるところに行き尊者ナンダに、
 「友よ、ナンダよ、教師があなたを呼んでいます」
 「友よ、わかりました」と、尊者ナンダは、その修行者に答えて、お釈迦様のおられると 
 ころに行き、ご挨拶(あいさつ)して、かたわらに坐り、尊者ナンダにお釈迦様は、こう
 告げました。
 「ナンダよ、あなたは大勢の修行者に、このように告げたのですか。『友よ、わたし
 は、清浄行を歩んでも楽しくなく、清浄行を修め続けることができないのです、戒を捨て
 て還俗します』」
 「尊き方よ、そのとおりです」
 「ナンダよ、どうして、喜ぶことなく、清浄行を歩んでいるのですか。清浄行を修め続け
 ることができないのですか、学びを拒んで、戒を捨てて還俗するのですか」
 「尊き方よ、わたしが家を出るとき、サキャ族のジャナパダカルヤーニー(尊者ナンダの
 許嫁で釈迦族一の美人)が髪を梳(す)き、振り返って、わたしに、
『旦那さま、早く帰ってこられますように』と。尊き方よ、わたしはジャナパダカルヤーニーのことを思い浮かべながら清浄行を歩んでも楽しくなく、清浄行を修め続けることができないのです戒を捨てて還俗します」
 お釈迦様は、尊者ナンダの腕をつかんで、それは力のある人が、曲げた腕を伸ばすかのように伸ばした腕を曲げるほどのわずかな間に、ジェータ林から姿を消し三十三天に出現しました。
 その時、五百ほどのカクタパーダ(鳩の足)という名の仙女たちが、天の神々たちの王帝釈天(インドラ神)の奉仕にやってきたのです。
お釈迦様は、尊者ナンダに語りかけました。
 「ナンダよ、これらの五百の仙女カクタパーダたちが見えないのですか」
 「尊き方よ、見えます」
 「ナンダよ、どう思いますか、どちらがうるわしく、美しく、清らかか、サキャ族のジャ
 ナパダカルヤーニーか、五百の仙女カクタパーダたちか」
 「尊き方よ、耳鼻を切られ手足を損傷した雌(めす)猿のように、サキャ族のジャナパダ
 カルヤーニーはこれらの五百の仙女たちと比べて、ものの数にもならず十六分の一にもな
 らず、くらべものになりません。
これらの五百の仙女たちが、姿うるわしく、美しく、清らかでもあります」
 「さあ、ナンダ。さあ、ナンダよ。五百の仙女カクダパーダたちがあなたのものになるの
 を約束しましょう」
 「尊き方よ、わたしのために、世尊が五百の仙女カクダパーダたちがわたしにものになる
 のを約束して頂けるなら、尊き方よ、わたしは世尊のもとで修行に励みます」
 お釈迦様は、尊者ナンダの腕をつかんで、それは力のある人が、曲げた腕を伸ばすかのように伸ばした腕を曲げるほどのわずかな間に、三十三天から姿を消しジェータ林に出現しました。
修行者たちは、「世尊とは兄弟でもあり叔母の子でもある尊者ナンダが、仙女たちのために、清浄行を歩むらしい。世尊が、五百の仙女カクダパーダがナンダのものになると約束をしたらしい」と耳にしました。
尊者ナンダの仲間の修行者は、尊者ナンダのことを、「雇われ人」とか「商売人」という言葉で呼び
「尊者ナンダは雇われ人らしい。尊者ナンダは商売人らしい。仙女たちのために清浄行を歩む。世尊はナンダのために、五百の仙女カクダパーダをえる約束をしたらしい」
尊者ナンダは、仲間の修行者の「雇われ人」やら「商売人」と言われ苦悩し、自己嫌悪になりながら、独り人々から離れ、きづきを怠らず、情熱をもち精励し、ほどなくして、その目的のために良家の子息たちが家から出家するその無上の、清浄行の終了を、現世を、自ら知って、悟ったのでした。
すなわち「まよいの生は滅し、清浄行は完成された。なすべきことはなされた。ここにあることのために他になすべきことはない」と知って、尊者ナンダはアラカンのひとりとなったのです。
 ある天の神が、夜が更けると輝きとなりジェータ林を照らして、お釈迦様のおられるところに現れ、お釈迦様にご挨拶(あいさつ)して、かたわらに立ちました。
 「尊き方よ、世尊とは兄弟であり叔母の子でもある尊者ナンダは、煩悩を滅し、煩悩なき
 境地を、心による解脱を、知慧による解脱を、現世にて、自ら、知り、悟り、なしていま
 す」
お釈迦様も次のように知った。
 「ナンダは、煩悩を滅し、煩悩なき境地を、心による解脱を、知慧による解脱を、現世に
 て、自ら、知り、悟り、なしました」
尊者ナンダは夜が明けて、お釈迦様のおられるところに行き、ご挨拶(あいさつ)して、かたわらに坐りました。尊者ナンダは、お釈迦様に、
 「尊き方よ、わたしのために、世尊は、五百の仙女カクダパーダたちを得る約束をしておられるのですが、尊き方よ、約束はなかったことにしてください」
 「ナンダよ、わたしも心をとおして、あなたのことを知りましたよ。『ナンダは、煩悩は滅し煩悩なき境地を心による解脱を、知慧による解脱を、現世にて、自ら、知り、悟り、なした』
天の神もまた、わたしに、このことを告げました。『尊き方よ、世尊とは兄弟であり叔母の子でもある尊者ナンダは、煩悩を滅して、煩悩なき境地を、心による解脱を、知慧による解脱を、現世にて、自ら、知り、悟り、なした』と。ナンダよ、何ものをも執着せず、心は煩悩から解脱したのです、わたしは、この約束を取り消したのです」
  お釈迦様は、このことを知って、ウダーナを唱えました。


汚泥を乗超えた
欲の荊(いばら)をこわし
愚痴をなくし
楽苦をなくした人がビクである
(26)
    以上が第二の経となる。
  
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なにが書いてあるか


(直訳詩)
Yassa nittiṇṇo paṅko,
汚泥を超え出て
Maddito kāmakaṇḍako;
欲望の荊を砕いたら
Mohakkhayaṃ anuppatto,
無知の消滅を獲得した
Sukhadukkhesu na vedhatī sa bhikkhū”ti.
もろもろの楽苦に、動じないのがビクである


貪瞋痴を超えわたり、苦・楽に動じることがない、アラカンの境地の詩



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伝 記


ナンダ 


スッドーダナ(浄飯)王とマハーパジャーパティー妃との間の子。したがってゴータマーブッダの異母弟に当たる。プッダが故郷のカピラヴァットウに帰国した際、その第三日目のナンダの結婚式の直前に、ブッダは強いて出家させた。のちナンダがしばしば追憶して愛欲に苦しむのを見て、プッダは種々の方便でナンダを教化する。またナンダは容姿が美しく、ブッダと見まちがえられた。よく諸欲を自制し、さとりを得る。諸欲をよく押えて調伏諸根最第一とされる。
なお別説では、かれはすでにスンダリーと結婚してスマンダラナンダと呼ぱれており、ブッダによって出家させられたのは立太子式の日ともいう。
  
「テーラガーター」一五七・一五八を説く。
一五七 わたしは、正しく思惟しなかったので、装飾にふけり、うわついていて、ふらふらして、愛欲に悩まされていた。
一五八 〈太陽の裔であり、みちびく手だてに巧みなブッダ(の助け)によって、わたしは正しく実践して、迷いの生存に向う(わが)心を引き抜いた。
   ナンダ長老



初期仏教最古の資料の「スッタニパータ」の第五章のうち、その一〇七七~一〇八三偏はかれの問いとブッダの答え。

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