ウダーナ ~ ベスト・オブ・仏教

仏教ベスト盤 ~ ウダーナ ~ を翻訳・解説

ウダーナ ~ 第1章10バーヒヤの経 番外編

現在、悲しいことですが戦争が起きています。


 争論は、言い争いという意味ですが、戦争と読んでも、いいです。
お釈迦様が争いを終わらせる方法を説いていることにかわりはありません。


そこで、11争闘経を再び取り上げます、



ウダーナ番外編


 ウダーナ 第1章10バーヒヤの経 副読本で取り上げた
スッタニパータ 第4章八なるものの章(アッタカヴァッカ)11争闘経について


 スッタニパータは中村元先生が「ブッダの言葉」というタイトルで翻訳された、広く知られたお経です。
 パーリ語の仏典としては明治以降に日本で初めて知られ、現在では最古の仏典として、お釈迦様の肉声に最も近い言葉と言われています。
 スッタニパータは、日本ではわずかに引用されて漢訳経典のうちに古くから伝わっている部分もありますが、全体は知られていませんでした。
しかしスッタニパータ第4章(アッタカヴァッカ)は「仏説義足経」として古くから伝わっています。
 今回は、漢訳経典に親しまれている方も多いと思い、アッタカヴァッカ11争闘に当たる漢訳経典を紹介します
詳しい解説は「第1章10バーヒヤの経 副読本」を参照してください
https://padoma.muragon.com/entry/65.html
https://padoma.muragon.com/entry/67.html
https://padoma.muragon.com/entry/69.html





以下最初に漢訳、次に漢訳の伝統的訓読み、次に〇現代語訳を記載しました


1
鬪訟變何從起
鬪訟に變(へん)ずるは何によりて起こるか
 ・鬪訟 → 争論
・變(へん)ずる → 姿や様子が変わること
〇争論になってしまう原因は、なにから起こるのですか
致憂痛轉相疾
 憂・痛を轉(てん)じて相(あ)い疾(にく)み  
・轉(てん)じて → 転じて
〇憂い・痛みから相互いに憎み
起妄語轉相毀
 妄語を起こして轉(うた)た相ひ毀(そし)る 
・轉(うた)た → ある状態が、どんどん進行してはなはだしくなるさま。
〇妄語(うそ)から毀(悪口)が起き相互いに激しくなる
本從起願説佛
 本づき従(したが)い起こるのを願はくば説きたまへ、仏
 〇これらは、どこから起こるか教えてください


2
坐憂可起變訟
憂と可[愛]とに坐(よ)り起きて訟に變(へん)ず 
〇争論から、憂いと可愛いは起こり
轉相嫉致憂痛
轉(うた)た相(あ)い嫉(ねた)み憂・痛を致(いた)す
〇嫉み憂いと痛みは相互いに争い激しくなる
欲相毀起妄語
 相い毀(こぼ)らんと欲し妄語を起こす
  ・毀(こぼ)る → 他人のことを悪く言う。非難する。けなす
 〇相互いに激しく争い悪口を起こす
以相毀鬪訟本
相い毀(こぼ)るを以(もっ)て闘訟の本あり
〇争論が起こるのは激しい悪口から


3
世可愛何從起

世の可愛は何によりて起こるか
 〇世の可愛は何によって起こるか
轉世間何所貪
轉(てん)じて世間に何をか貪ぽる所ぞ
〇世間にある貪りはどのようにはびこる
從置有不復欲
有を置(お)くにより復(ま)た欲せず
 ・復(ま) → また(又)
 〇また、希望が叶うことを願うのは
從不復轉行受
 復(ま)た[欲]せざるによりて轉(てん)じて行きて受くや
  ・轉(てん)じて行きて受くや → なにに基づいておこる
 〇希望を願うこと(欲)により基づいておこる


4
本所欲著世愛

本欲する所世愛に著(しる)き 
〇著(いちじる)しい世間における欲・愛しいもの
以利是轉行苦
是(こ)れを利(り)せんとするを以(もっ)て轉(てん)じて苦に行く
〇これらを利する(望む)ことが苦につれて行く
不捨有從是起
行を捨てずば是(こ)れによりて起こる
 〇これらの行いを捨てなければ是れ(欲・愛しいもの)によって起こる
以故轉後復有
 以故に轉じて後に復だ有り
 〇だから(行いを捨てなければ)後々まで繰り返し(苦)は有る


5
隨世欲本何起

世に隨(つ)ひて欲は何に本づき起こり
〇世間での欲は何から起こるのか
從何得別善惡
何によりて善悪を別つを得ん
〇善と悪はどうやって別つ(決める)のか
從何有起本末
 何によりて本末を起こす有りや
 〇始めと終わりはどうやって起こるのか
所制法沙門説
  所制の法は沙門(さもん)の説けるか
 〇沙門(修行者)の説く所制の法(諸々の法)とはなにか


6
亦是世所有無

亦(ま)た是(こ)の世の「有り」「無し」とする所
 〇世間の言うところの「有り」「無し」は(どうやって起こるのか)
是因縁便欲生
是(そ)の因縁もて便(すなわち)」ち欲生ず
〇「有り」「無し」の因縁により欲は生ずる
見盛色從何盡
盛色の何によりて盡(つ)くるかを見て
  ・盛色 → もろもろの物質
 〇もろもろの物質は何によって尽きる
世人悉分別作
 世人悉(ことごとく)く分別して[有り・無しと]作す
 〇世間の人々は分別して「有り」「無し」を作る(決めつける)


7
所從欺有疑意

欺(ぎ)に従(したがう)ふ所に疑意有るも
 〇欺(あざむき)きがあるところに疑(うたがい)いがある
亦是法雨面受
亦(ま)た是(そ)の法は両面に受くればなり
〇この法(欺き・疑い)は両面(二つ)があるときにある
念從何學慧跡
何に従(したがう)ふかを念じ慧[者]の述を學べ
 〇なにに従うかは深く心に学び慧者の言葉に学べ
願解法明學説
法を解するを願ひ學の説くを明かにせよ
 〇法(教え)を理解することを願い慧者の言葉に学び明らかにせよ


8
所有無本從何

「有り」「無し」とする所本何に従(したがう)ふや
 〇「有り」「無し」の本当の意味はなににたずねるのか
無所親從何滅
親(もと)とする所無くんば何に從(したがう)ひて滅すや
〇もとになる所がないなら、なににたずねれば両面(二つ)は滅するのか
盛亦減悉一義
盛(さかん)んなるも亦(ま)だ減するも悉(ことごと)く一義ならん
  ・一義 → 意味が一種類であるさま。
 〇生存(生きる)と滅(死)することは、みな同じ意味である
願説是解現本
願くは是(それ)を説き 現の本を解きたまはんことを
 〇その意味を説き、本当の姿を解き明かしてください
  
9
有亦無著細濡

有も亦(ま)た無も細濡(触)に著(しる)く
 〇有も無も触から起こる
去來滅無所有
去来し滅せば所有無けん
・所有 → 諸々の有・これら
〇触が滅すればこれら(有も無)はない
盛亦滅義從是
盛も亦(ま)た滅も義は是(それ)に從(したがう)ふ
・義 → 正しい筋道
 〇有も無も触が滅すれば、滅するということ
解現賢本盡是
 現を解する賢は本より是(それ)を盡(ことごと)くせり
 〇ありのままに理解(見る)する賢者は、このことを説く


10
世細濡本從何

世の細濡(触)は本何に從(したがう)ふ
 〇世間での触はどこから起こるのか
著世色從何起
世の色に著(しゅう)するは何より起こる
 ・世の色に著する → 身体に執着する、自己のこと
〇世間でいう自己(自分の心と身体)は何から起こるのか
從何念不計著
何に從(したが)ひて念ぜば計著(けじゃく)せざる
・計著 → こだわりすぎる
 〇どのように念ずれば(見れば)自己にこだわらなくなるのか
何因縁著可色
 何の因縁もて可[愛]の色に著(しゅう)すや
 〇何の因縁で自己(色)にこだわるのか


11
名色授著細濡

名色授(さず)けなば細濡(触)に著(あらわ)す
 〇名色から触が起こる
本有有色便起
本有有らば色便(すなわ)ち起こる
 ・本有有らば色 → 自分の体と心があるという実感
〇自分が有るということは、どこから起こるのか
寧度癡得解脱
寧(ねんごろ)に癈(ち)を度(は)せば解脱を得
〇安らかに痴をはずせば悟りをえられる
因縁色著細濡
 色を因縁として細濡(触)に著(あらわ)す
 〇色を因縁として触が起こる


12
從何得捨好色

何によりて好色を捨つるを得ん
 〇何によって好色を捨てるのか
從衆愛從何起
衆愛によるは何によりて起こる
 ・衆(生物)愛による → 生きるという執着
〇生きるという執着はどのようにして起こるのか
所著心寧悉盡
著(ちゃく)する所の心は寧(ねんごる)ぞ悉(ことごと)く盡(つき)くるや
 〇執着する心はやすらかになることで、ことごとく尽きる
諦行知如解脱
 諦(あきらか)かに行(ぎょう)じ知れば解脱するが如くなりや
 〇どのように行えば、解脱する(悟る)そのさまを、あきらかに知りたいのです


13
不想想不色想

想想なく色想なく
〇想を想うこともなく、想を色と誤って(想う)ことなく
非無想不行想
無想あらず行想あらず
〇想を無いと(想う)ことも、想を行わないと(想う)こともない
一切斷不著者
一切斷(だん)ぜば著(あらわ)せざる者なり
 ・著(あらわ)せざる者 → 欲も行(豪)もつくらない者
〇すべてを捨てた人は、なにもつくらない
因想本戲隨苦
 想の本に因りて戯れ苦に隨(したがえ)へばなり
 ・戯れ苦 → 虚構の苦、概念のこと
 〇虚構の苦は想を原因にして生じるから


14
我所問悉已解

我が問ふ所悉(ことごと)く已(すで)に解きたまへり
 〇我が問をすべて私に説かれた
今更問願復説
今更に問はん願はくは復(また)説きたまはんことを
〇今さらに問います、お願いです、また説いてください
行[涅-日+乖]悉成具足 
行じ[涅-日+乖] (しの)げば悉(ことごと)く具足を成ずや 
 〇この修行(教え)を凌ぐ、最高の満足を成す
設無不勝尊徳
 設(も)し尊徳に勝らざる無き
 〇尊徳(ブッダの教え)に勝るものがあるという者がいるのです


15
是極正有何邪

是(こ)れ極て正なれば何の邪か有らん
 〇極端な正しくない邪の教えが有る
向徑神得果慧
徑(みち)に向へば神すら果慧を得
・徑(みち) → ブッダの教え
〇仏道に向うなら神すら智慧の結果を得る
尊行定樹林間
尊は定を樹林の間に行じ
 〇尊者は樹林で瞑想修行を行い
無有餘最善説
 餘(あまる)有ること無く最も善く説きたまふ
 〇あますことなく最も善く教えを説かれた


16
知如是一心向
知ること是(かく)くの如(ごと)くにして一心に向かひ
 〇これらの教えを信じる者は一心に向かうと知る
尊已著不戒行
 尊は著(着)するを已(や)め戒行したまはず
 〇尊者は執着するのをやめて戒を守り修行し
疾行問度世間
疾(と)く行きて世間を度するを問へ
 〇とっくに世間に教え聞かせている
斷世捨是彼身
世を断じて捨てたる是(こ)れ彼の身なり
〇尊者とは世の中を捨てた身の上である


佛説是義足經竟。
佛、是(こ)の義足経を説き竟りたまひしに
比丘悉歡喜
比丘悉(ことごとく)く歓喜しき。
佛説義足經卷上


 訓読みについては「義足経」研究の視座 附・訓読 (光華選書) 」加治 洋一編集
より全面的に参考にし記載
 現代語訳と訓読みの下の解説は、菅谷良明が記載したものです

×

非ログインユーザーとして返信する