4．5　象の経（３５）
　このように、わたしは聞きました。
　あるとき、お釈迦様は、コーサンビーに住んでおられた。
　ゴーシタの聖園で、お釈迦様は、ビクやビクニや在俗の信者や女性の在俗信者や王や王の大臣や異教の者や異教の者の弟子らに煩わされ、混乱して住んでおられた。お釈迦様はこう思ったのです。
　「わたしは、ビクやビクニや在俗の信者や女性の在俗信者や王、大臣、異教の者、異教の
　　弟子らに煩わされ、混乱して住んでいる。煩わされ苦痛であり平穏ではなく混乱して住
　　んでいる。わたしは独りになり、人々の群れから遠く離れ、混乱なく住むことにしよう」
　お釈迦様は、朝早くに着衣をきて鉢と衣料をもって、コーサンビーに托鉢のために入りました。コーサンビーで托鉢し、食事のあと托鉢から戻ると、自ら寝具や坐具をたたんで鉢と衣料をもって、従者に語りかけず、ビク衆にも語りかけず、ただお独りで、パーリレイヤカ村へと遊行の旅に出たのです。パーリレイヤカ村へ着いた。お釈迦様はパーリレイヤカの林の茂みに守られた、サーラ樹の根元にただ座られた。
　巨象も、雄象や雌象、子象、幼象に煩わされ、混乱して住んでいます。先が切れた草を食べ、折れ曲がった枝を食べ、濁った水を飲み、水浴びした雌象たちは身体をすり寄せてきた。巨象は、こう思ったのです。
　「雄象や雌象や子象や幼象に煩わされ混乱して住んでいる。先が切れた草を食べ、折り曲
　　られた枝を食べる。濁った水を飲み、水浴してから、雌象たちは身体を擦り寄せる。煩
　　わされ、苦痛であり平穏でなく、混乱して住んでいる。わたしは、独りになり象たちの
　　群れから遠く離れ混乱なく住むことにしようか」
　その巨象は群れから去って行ってパーリレイヤカ村の林の茂みに守られたサーラ樹の根元に、お釈迦様のおられるところに行き、その地を芝生にし、お釈迦様のために鼻でもって飲み水と洗い水をくんできます。
　お釈迦様の心に、このような考えが浮かびました。
　「昔は、ビクたちや‥‥に、混乱し住んでいた。今は‥‥混乱なく住んでいる」
その巨象の心にもまた、このような考えが浮かびました。
　「昔は、雄象や雌象や‥‥‥、混乱して住んでいた。今は、‥‥混乱なく住んでいる」
　　お釈迦様は、遠く離れた生活から、自らの心をとおして、その巨象の心の考えを知って、ウダーナを唱えました

シャフト（車に着ける二本の長い棒）のような牙をもつ
手のような鼻をもつ巨象の心は
森の中でひとり楽しむ
聖者の心とおなじこと